軍事のスペシャリスト・森本敏 『日本の瀬戸際―東アジア最大の危機に日本は生き残れるか』を読んで。

(この本は2011年に発行されました)


1、東アジアは今後、さらに混乱する。
まさに瀬戸際の日本は今までのような対応を繰り返していたのでは国益はおろか、国民の生命や財産も守れない。


2、今、世界の中で東アジアは最も危険度が高いエリアと言える。
おそらく、2011年から2012年にかけて、この地域における緊張度は一層高まるであろう。
東アジアが、この1年ほどの間、正しくは2009年巷間から2010年末にかけて、どうしてこのように危険度の高い地域になったのかについては理由がある。
それは中国と北朝鮮において新しいリーダーの登場を背景にした路線変更のプロセスが起こったことに起因する。


3、元来、中国は歴史的に見て、その軍事力を周辺に示威することによって相手を威嚇し、その影響力を最大限に行使しようとする体質を有している。
この核心的利益の中には台湾・チベット南シナ海、そして東シナ海が入っているらしいことも徐々にわかってきた。
中国の対外政策はこれに基づいて2009年末から核心的利益を追求し、対外関係を犠牲にしてもやむを得ないという対応をとるようになった。
この頃になって米国は中国のいう核心的利益の内容と、それがいかに深刻な安全保障上の問題をもたらすかについて気がついたのではないかと思われる。


4、ノーベル平和賞を受賞する反体制作家の人権問題については、10月に受賞が公表されてから12月の表彰式にかけて中国が各国に表彰式参加をやめるよう各国に働きかけたことを巡って、中国と米欧諸国は分裂した。


5、この1年間、中国は欧州諸国とノーベル平和賞作家の人権問題を巡って対立し、米国とは台湾武器売却・ダライラマの扱い・人民元切り上げ・人権問題・対北朝鮮政策・対イラン政策・南シナ海問題・環境問題などを巡って対立したうえに、ASEAN諸国とは南シナ海などを巡って対立、韓国では「天安」事件や北朝鮮の砲撃事件を巡って反中感情が高まり、日本とは尖閣諸島事件を巡ってやはり対中感が悪化するなど、ほとんどの諸国といろいろな問題でぶつかってきた。
その原因は、次期リーダーの登場を予期した中国の戦略調整という路線変更によるものであり、また、他国との関係で妥協や協調を許さない国内勢力が政権の背後に存在することを意味する。


6、北朝鮮の軍事的挑発行動を受けて日米韓が東シナ海黄海日本海において合同演習を行ったことに対し、昨年は反対しなかった人民解放軍が2010年5月頃から、強い反対をし始めたのみならず、黄海南シナ海を中心として大規模な軍事演習を実施して、これに対応してきたのも、こうした国内政治勢力中国軍部の意向が強く存在していることをうかがわせる。


7、このように北朝鮮は中国に手を打って、次に9月の北朝鮮労働党代表者会において北朝鮮労働党中央軍事委員会の副委員長に就任した金正恩大将の政治的・軍事的リーダーシップを示威し、米国を交渉のテーブルに着かせるために計画したのが、11月の北朝鮮軍第4軍団による韓国延坪島砲撃事件である。
すなわち、北朝鮮の軍事的挑発行動は米国との対話促進という外交上の狙いを中心としたものである。


8、平時に他国の領域内に実弾を撃ち込み、民間人に被害を与えるという暴挙を行った北朝鮮をかばうことが国際社会でいかなる評価を受けるかを知りつつ、中国がそこまで北朝鮮の側に立って行動するのは、中国の国家安全保障にとって北朝鮮の存在がどれほど重要であるかを示すものである。


9、そうなると、北朝鮮が再び米国を交渉のテーブルに座らせようとして軍事的挑発行動を行う蓋然性は排除されないということになる。
一方、韓国では3月の「天安」事件以降、北朝鮮軍の挑発行動を受けて、韓国軍がほとんど、何もできないことに国民の多くが不満を持ち、韓国軍に対する韓国国民の不信感、信頼感が低迷している。


10このロシアの外交イニシアティヴは、ロシアが北東アジアの問題に深く関与していることを示すためのものあるが、このイニシアティヴの背後には中国との緊密な協議と連携行動をうかがわせるものがある。


11、北朝鮮の軍事的挑発行動はまだ続くと思わざるを得ない。
中国がこれをかばいだてすることも続くであろう。
日本としては、当面のところ、こうした東アジアの不安定状況に対して緊密に連携された日米同盟と防衛力に基づく抑止力をもって対応する以外にない。


12、東アジアでは、この数年、中国や朝鮮半島を巡って域内諸国のパワーバランスが大きく変化し、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増す一方である。
既に米国では2025年頃までに日本、中国、韓国が衝突して東アジアに深刻な紛争状態が起こると予測する報告も公表されている。


13、中国はG-2(アメリカと中国を指す)の時代到来と言われるまでになり、2020年頃には経済力の面で、2030年頃には軍事力の面で米国と肩を並べる状態にまで発展してくると予想されるようになってきた。
これは国際社会のバランスの変化の中で最も重大な変化要因である。


14、2020年以降の東アジアを展望する前提として、こうした全般的傾向の中で、東アジアが中国・インドなどの新興国と、相対的な国力が低下しつつある米国および、これからの方向が明確に展望できないロシア、並びに日本・ASEAN・韓国などが混在する複雑な地域となる点を指摘したい。
その間、中国の覇権的行動はますます大きくなり、中国の経済発展に伴い、軍事力の近代化が進み、そのことは、日米など、海洋に利益を有する自由主義国家と、これに対して領有権の確定しない海洋における領有権を獲得しようとする中国の厳しい競合関係が出現するであろう。


15、メドベージェフ大統領が2010年11月に国後島、12月にはシュワロフ第1副首相、2011年1月にはブルガコフ国防次官が続いて北方領土を訪問した背景には、国内のナショナリズムに根差した国内政治的な背景要因があったことは否定できない。
戦争で獲得した領土を平和時に外交交渉を通じて返すべきではないという保守主義ナショナリズムの強いロシア世論がある中で、メドベージェフ政権は領土問題で柔軟な対応をすることが難しい状況にある。
もちろん、周辺諸国の弱みにつけ込んで攻勢に出るという伝統的なロシア外交の現れでもある。
すなわち、アジア太平洋諸国から外資を導入し、アジア部の資源を開発してロシア財政を立て直す道筋を国民に示すこと以外にメドベージェフ再選の道はないのである。
しかし、いずれにしてもプーチン体制が当面、続くということには間違いなさそうである。


16、対外政策について経験も知識もない若いテクノクラートが政治リーダーになった場合は、政治的影響力を拡大しつつある人民解放軍の強い要請をはねつけられるだけのリーダーシップが備わっているとは思えず、中国はこれから急速に、友好協調路線から対外強硬路線に変更する可能性があるといえる。


17、このように、2012年は米国・ロシア・中国で指導部交代の可能性があるが、この年は東アジア全体を見ても、他の多くの国でリーダーが交代し、構造的な変化がもたらされることが予想される。


18、このように東アジアを概観すると、この地域の不安定要因は二つに要約される。
一つは、民主主義的ルールに従わない統治機構が国内を統治し、しかも国際社会の多くが有している共通の価値観や国際ルールを遵守しない国があることである。
すなわち、中国共産党が独裁政治している中国と、独裁者が統治している北朝鮮である。
しかもこの2国は、その独裁政権が統治のための全権を持っておらず、特に、政権の背後にある軍事力が非常に大きな政治的影響力を行使できるような状態にあり、軍事力の影響が強まっている。
中国においては、今の中国共産党指導部に対し、人民解放軍の影響力が非常に大きくなるか、もしくは指導部が人民解放軍を十分にコントロールできない現象が表れてくる。
北朝鮮においては、軍部が金正日の許可を得て、国際感覚のない横暴な挑発活動を繰り返している。
以上が、東アジアを不安定にしている第1の要因である。
二つめの要因は、これらの2国が自国の軍事力を周辺地域に射出する時、国際法上確定されていない領域に、領有権を理由に押し出してくるということが挙げられる。
国際法上確定されていない領域とは、「海洋」のことである。
尖閣諸島問題も、延坪島への砲撃も、この要因から起きたことである。
中国は、1992年に領海法を成立させ、その中で、南シナ海におけるすべての島しょは中国領土であり、中国の領海は、中国の領土および内水に隣接する一帯の海域からなり、中国の領海基背線の内側の内域は中国の国内とすること、並びに中国は領土、領海、内水における管轄権を行使するとした。
最近、中国はこの国内法に基づき厳しく対応しようとする意図を明らかにしつつある。
2010年になって中国がベトナムインドネシアと海洋おいて衝突事件を起こした原因の多くがこの点にある。
中国が海洋に進出している背景は台湾攻略・海洋資源保護・海上輸送路防護である。
このいずれの理由も米中関係を悪くする潜在的問題を有する。
中国は本気で、太平洋をハワイで2分割して米中で分割管理しようと考えている。
中国の持つ要因が最も深刻であるのは、中国の動きをいかなる国と言えども封じ込めることができないからである。


19、我々はこれまで、世界の紛争の火種は、中東・湾岸・北アフリカ中南米にあると考えていたが、いまはそうではなくなった。
我々の住む東アジアこそが最も危険な地域になりつつあること。
そして、そのほとんどの発生源が中国と北朝鮮から出て来ることを認識すべきである。


20、北朝鮮の兵力・装備の数は韓国と比べると多いものの、多くの兵器が老朽化しているのである。
しかも、経済力・産業力・資源が少ないので継戦能力が低い。
そのため、もし戦争になると北朝鮮は長期戦争には耐えられない。
このような通常戦力の劣位を補完するために、北朝鮮が行き着いた結論は核兵器開発であった。
もっとも、この計画には背景がある。
韓国が1970年代中頃以降に密かに核開発計画を進めていたのを米国が察知し、これをやめさせようとしていた時、1979年10月、パクチョンヒ大統領が暗殺された。
後継のチョンドゥファン大統領を米国が認知する代わりに韓国の核開発計画を断念させたことを北朝鮮は知って、これに対抗するものとして核開発計画に着手したとも言われる。
このように、北朝鮮朝鮮戦争が終わった後もずっと、半島の武力統一を諦めてはいない。
実際に運用できる戦力バランスを考えると、在韓米軍ならびに近代化された韓国軍が、実質的には北朝鮮軍に対して圧倒的に優位にあり、軍事的に本格攻撃を行ったら、北朝鮮が敗北する可能性は高い。
それにもかかわらず北朝鮮軍が先制攻撃に出た場合には、最初の一撃によって韓国に痛撃を与えることができる。
しかし継戦能力がないために北朝鮮の体制としては自殺的行為に陥ることになる。
そういう状況にあることは、北朝鮮側が最もよく知っているのではないかと思われる。


21、陸上のDMZには地雷が埋めてあるので簡単に通ることはできず、DMZを超えて北朝鮮から韓国へ侵入した例はない。
しかい北朝鮮はDMZの下を掘って地下トンネルを設けた。
既に4つの地下トンネルが韓国軍によって発見されているが、中には、戦車や装甲車が自由に通れるほど大規模な地下トンネルもあり、ここを通って北朝鮮から韓国へ侵入し、その後何くわぬ顔をして韓国で生きている北朝鮮関係者もいるに違いないと思われる。


22、この報復の聖戦なるものは、どのようなものになるのか、その判別がつかなかったところ、およそ2ヶ月後の2010年3月26日に事件が発生した。
その日の午後21時22分頃、黄海のNLL南側の韓国水域において、韓国海軍の哨戒艦「天安」の船体が突然、真っ二つに折れて沈没し、結果として乗員104名のうち46名が死亡した事件がそれである。
韓国は事態を重く見て、国際合同調査団(米、栄、豪、スウェーデン、および韓国からなる専門家)に爆発地点での調査を依頼し、同調査団は4月に当該船舶を引き上げて調査した。
5月20日に公表した報告書の中で、当該船舶が北朝鮮の潜水艦から発射された魚雷が爆発した衝撃波によって船体が折れたことを明らかにした。
韓国は、これを6月4日に国連安保理に提訴し、北朝鮮に対する謝罪と制裁および補償を求めようとした。
しかし、中国が最後まで国連安保理における審議を阻止し、安保理決議の採決を阻んだため、結果はより弱い議長声明で終わってしまった。
以来、韓国には反中感情が急速に広がり、中韓関係は歴史的に最悪なレヴェルになっている。


23、これに対する抑止機能を強化するとともに、米韓両国による対応能力を練成しておく必要に迫られていた。
実は米国は、それよりも日本海東シナ海における中国の進出を念頭に置いて重点的に訓練を進め、抑止力を示威しようとした。
中国はこれに気づいてから、米軍が黄海に入ることに猛烈に反対し始めた。


24、むしろ、双方が行うべき訓練項目をそれぞれにこなしたという内容のものであり、北朝鮮を対象にした抑止力誇示のためのデモンストレーション訓練とも言えるものであった。
しかし、この米韓合同演習が、「天安」事件を受けて北朝鮮の潜水艦戦力による侵攻作戦への抑止機能を向上させることを主眼として、「北朝鮮の特殊部隊侵透阻止と対潜水艦探知、海空連合作戦能力等への熟達に向けたプログラム」であったことは間違いない。
ステルス性と速度に優れた第5世代戦闘機F-22ラプター4機を沖縄の嘉手納空軍基地から参加させたことも日本の基地から短時間で、北朝鮮に対する政治・軍事中枢部への攻撃ができる能力を示威するものとして注目された。
米国にとっては、それだけでなく、中国海軍に対する示威の意味をもつものであったことは明らかである。


25、例えば、米海軍が今回の合同演習に空母「ジョージ・ワシントン」を参加させたのは当然とは言え、軍事的な抑止機能としては重要な意味を有していた。
この原子力空母には、通常であれば、巡洋艦駆逐艦揚陸艦、補給艦およびその他の潜水艦等、10~12隻が随伴して空母機動部隊を編成して作戦を実施することとしており、艦載機100機を含む大きな戦闘力である。
もっとも、演習・訓練に参加した空母の随伴艦は少数ではあったが、それは限定された訓練目的であったためである。
このことは、在日米軍基地(横須賀、佐世保)から直接、東シナ海に1~2日の間に展開することができる態勢が日本周辺において維持されているということであり、これは周辺諸国に対し、きわめて大きな抑止効果を持つものであった。


26、中国が行った演習の中で、注目された演習があった。
その一つが7月26日、南シナ海において実施された海軍多兵種の合同演習である。
この演習には、中国海軍の東海艦隊、北海艦隊、南海艦隊から主力艦隊・潜水艦・戦闘機が参加し、南海艦隊が主催して3つの海区におけるミサイル発射を含めた大規模実弾演習を行った。
この演習では、電子戦を実施しつつ、対ミサイル、防空作戦、制海作戦における能力向上を狙ったものと考えられる。
また、東海艦隊、北海艦隊が南海艦隊の演習に参加することによって、艦隊の機動展開能力の向上も図ることも、演習の目的であった。
このように、3艦隊の共同演習を実施したことは今までにないことであり、統参謀長等中央軍事委員会メンバーがこの演習を視察したことは、注目される。


27、もう一つ注目された演習が、8月3日から7日にかけて、山東省および河南省で行われた済南軍区防空部隊によるユニット統合演習「前衛2010」である。
新華社」、「解放軍報」によると、この演習は、海・空軍の電子偵察機、戦闘機、攻撃機、電子戦機、無人機、ヘリコプターなど、延べ200機が参加し、防空部隊では、陸軍の防空ミサイル、高射砲など7種類の対空火器が参加した。
2009年に続き2010年も済南軍区が主体となって、駆逐艦偵察衛星、早期警戒機、偵察機、電子戦機が統合訓練をしたものであり、それにより統合運用の経験を蓄積することが目的と考えられる。


28、この間、北朝鮮金正日総書記が2010年の5月と8月の2回に渡って中国を訪問した。
この訪中は、本人の希望もさることながら、むしろ中国の強い要請により、中国側の指定したコースを視察して回った形跡がある。
金正日総書記にとっては、5回目・6回目の訪中であるが、中国は今でも、いくつもの経済特区を紹介し、北朝鮮に対して中国型の改革解放経済を進めるように示唆してきた。
改革開放経済によって豊かになることは、北朝鮮にとって何ら問題はないが、そのために外資が導入されると、結局、自由社会からの情報が北朝鮮の内部に伝搬され、それが一般市民の間に広がれば、自分たちがいままで国民に教えてきたことが真実でないことを知られてしまう。
それを恐れ、門戸をなかなか開放できないでいるというジレンマが、北朝鮮にはある。


29、延坪島は、朝鮮半島西側の黄海に設定された北方限界線より韓国領域側に位置する有人島である。
2010年11月23日の午後2時過ぎ、北朝鮮はこの延坪島に砲撃を行った。
北朝鮮は、なぜこんな砲撃事件を起こしたのか。
同年3月26日に起きた韓国哨戒艦「天安」の沈没事件以降、米韓両国は北朝鮮に対する非常に強い抑止機能を発揮しようとしてきた。
7月には日本海、9月には黄海において軍事演習を展開したが、北朝鮮はこうした米韓の演習に非常に大きな圧迫感を持ったものと思われる。
そこで北朝鮮は、この圧迫を押しのけ、かねてより北朝鮮に対する敵視政策を進めてきた李明博政権に、政治的・軍事的な痛手を与えようとした。
そうであるとすれば、この砲撃事件の軍事目的は、北朝鮮第4軍団の砲兵部隊が中心となって計画した韓国への懲罰攻撃という要素がある。
しかし、この砲撃事件を起こした理由としては、米国を対話と交渉の場に引きずり出したいという政治的・外交的目的のほうが、はるかに大きいと考えられる。


30、もしも在韓米軍を砲撃したら、必ず反撃されて大きな損害を受けることを北朝鮮は知っている。
だから、アメリカを交渉のテーブルにい引き出すという外交上の狙いはあったとしても、米軍には砲弾が1発も行かないように配慮し、韓国軍だけを狙い撃ちしたのである。

 

31、そのため、6ヵ国協議の中国代表である武大偉特別代表大使が北京で記者会見し、「6ヵ国協議の首席代表による会合を12月初旬にしたい」と提案した。
その意味は、「これ以上、事態を拡大させたくないから対話をしたい」ということである。
北朝鮮はさらなる挑発活動に出るかもしれないが、中国は北朝鮮を押さえることはできないので、これ以上の紛争拡大を防止するために、中国が外交上のイニシアティヴをとった形にしたかったのである。
そして、「これに従わないのなら勝手にしろ。どうなっても知らないぞ」という脅しを米韓および日本に突きつけたわけである。
ということは、中国は最後まで北朝鮮をかばうつもりでいるということである。


32、なぜ中国は、そこまで北朝鮮をかばうのか。
それは、国家の安全保障上、北朝鮮の体制が壊れることは、中国にとって受け入れがたいことだからである。
1950ねん6月から1953年7月まで3年余にわたる朝鮮戦争において、中国は1950年10月に参戦し、以来、北朝鮮側に立って米国、韓国と戦った。
多大な人民義勇軍の犠牲を払って北朝鮮政権を支えてきた中国が今更、北朝鮮を見捨てるわけにはいかない。
また、北朝鮮の体制が壊れて南北統一プロセスが韓国リードで行われたら、米韓両国が中朝国境まで近付く。
中国は国境を隔てて米韓から直接の脅威を受ける。
そうなると、北朝鮮から多くの難民が中国に入ってくる。
今でも中国の中に朝鮮民族が120万人いる。
それに多数の朝鮮民族流入してくると、中国にとって新たな少数民族問題が生起する。
中国としては受け入れがたい話である。
他方において、北朝鮮が非条理な軍事的挑発行動を繰り返していることで、この状態を放置し、その北朝鮮を後ろからカヴァーする中国自身が国際社会から非難されることは避けたい、そうしたジレンマを中国は抱えているのである。


33、もともと、米国の態度は一貫しており、「今回の北朝鮮の砲撃は許し難く、休戦協定違反であるから当然、本件を国連安保理に提訴すべき」という考えである。
しかし、提訴したらどうなるか。
結局、中国が休戦協定違反ということを認めず、安保理での審議も進まず、国連安保理決議も通らないということになる。
つまり、「天安」の沈没事件と同じことになるわけだが、米国は「それでもいい」と思っているに違いない。
「そこまでして中国は北朝鮮をかばうのか」というところまで、中国を追い込もうとしているのではないかと思われる。
だから、最後は、米中の対峙状態になる。


34、2010年12月に韓国軍が再び、延坪島において実弾演習をしたが、その直前に、ロシアが外交的イニシアティヴをとって緊急の国連安保理を開いたものの、日米両国は北朝鮮に対する非難決議を提案し、北朝鮮側に立つ中国とロシア、韓国側に立つ米国、英国、フランスの対立があって容易に解決の糸口は見いだせなかった。


35、こうした北朝鮮の挑発行動に、米国は今になって困っている。
しかし、その原因の一端を作った責任は米国自身にもある。
米国が北朝鮮問題のプライオリティを低くし、手を抜いたことも原因の一つであったと思われる。
そもそも米国が朝鮮半島に持っている懸念は、北朝鮮の核開発である。
それさえ防げればいいとこだわり過ぎたため、6ヵ国協議に引きずられてきた。
そして結局、6ヵ国間の約束を北朝鮮に破られ、6ヵ国協議は機能しないようになった。
当の北朝鮮プルトニウム開発だけでなく、ウラン開発まで進めようとしており、今は6ヵ国協議の交渉に戻る気などない。
米国のオバマ政権は、イラクアフガニスタン、およびイランの核開発といった中東・湾岸問題に重点を置いてきたが、結局、北朝鮮政策に手を抜いてきたツケが、こういう形になったのだと言えなくもない。
ロシアはアジア太平洋政策の方針に一貫性がなく、「天安」沈没事件の時は、安保理決議に反対したり賛成したりした。
それと同様に、今回も北朝鮮を非難したと思ったら、その一方で国連審議では中国側に立った。
したがってロシアに関しては、その発言をベースに対応を考えると過ちを犯すことになる。
要するに、ロシアは無視できる範囲の中にある。


36、米韓と共同歩調を取るという日本の政策方針は、それ自体は間違っていない。
しかし、この砲撃事件について言えば、初動の対処に問題があり、関係閣僚を集めるのに6時間も7時間もかかり、そのうえ、閣僚が集まって状況の説明を受けて終わってしまうということを数回も繰り返してきた。
砲撃は明らかに軍事作戦であるので、総理はこの砲撃が軍事的にどういう意味を持つのかというブリーフィングを最初にきちんと受け、軍事的な正しい価値を下してから決断をしなければならない。
閣僚が集まっても、そういう評価や結論は出てこない。
どういう軍事的意味があるかという評価を加えず、収集した生の情報をそのまま聞いても何の意味もない。
表面上、ミスマネージメントは表れていないが、日本に1発でも弾が飛んで来たら、恐慌を来すだろう。
官邸は、国際法上どう対応したらいいのかまったくわからないという状況になっている。
軍事的な危機管理の本質がまだ、官邸にわかっていない。
本当なら、どこの国でもそうしているように、直ちに統合幕僚長か統幕副長を官邸に呼んで軍事的な評価についてブリーフィングを受け対応措置を考えるべきである。
これは外交上の問題ではなく、行政上の問題でもない。
純粋に軍事上の問題であることを認識すべきである。

 

37、米韓と日米は同盟国だから安全保障面で緊密だが、日韓は必ずしも緊密とはいえない。
今回の北朝鮮による砲撃事件のような時には、日韓両国の官邸でホットラインを繋ぎ、直に情報交換できるようなシステムを作るのが正しいやり方である。
こうした場合、すべの情報を持っているのは米太平洋軍である。
なぜなら、米太平洋軍が朝鮮半島の上に置いている偵察衛星から直接、米太平洋軍に情報が入るからだ。
ハワイは、自衛隊の連絡将校が2名いるので常時つながっており、日本の統幕長と米太平洋軍司令官は常に電話で話をしている。
しかし、日韓には、そういうルートが全くなく、情報交換と指揮通信のネットワークの薄さが非常に気になる。
これでは、何か起きた時にすぐ日本が対応できない。


38、日韓両国は、この会談を通じてACSA(物品役務相互提供協定)やGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を日韓で締結するための話し合いを進める枠組みを設置することで合意した。
日韓の安全保障・防衛協力関係には情報交換・防衛対話・防衛交流・相互訪問・捜索救助・災害救援・医療協力など、直接の武力行使には至らない協力があり、さらに相手国から見れば武力行使に間接的ながら協力しているとみられるような協力、例えば、武器弾薬の提供・輸送・補給協力・部隊の再展開・海上警備行動などがある。
日韓には過去の歴史問題もあり、政治的に機微なる関係もあって、韓国には日本との防衛協力に慎重な意見が根強く、また、中国との関係においても、より慎重にすべきだとの意見もあり、日韓防衛協力は相互の政治事情を十分に考慮し慎重に進めなければならないことは言うまでもない。
したがって、当面はACSAやGSOMIAに関する協力にとどめ、日韓協力の状況を考慮しながら、次の段階にすすめることとしている。


39、いずれにしても、日本は緊急事態に対し必要な措置をとっておく必要がある。
その第一は、周辺事態法や船舶検査法など、事態対処法が効率的に機能し、武器使用が適切に行えるよう、見直すことである。
また、国内の体制を整備しておくことも求められる。
国民保護法に基づく組織は、周辺事態に対し効率的に機能するかどうかわからない。
この際、国家の緊急事態対処基本法を整備して、それに基づく国内体制を整え、訓練を行っていくことが必要となる。


40、そうであるならば、6ヵ国協議をやめり代わりに、米中両国が共同議長を務める「北東アジアの安定と繁栄のための協議枠組」へとシフトしていく必要がある。
北朝鮮の崩壊をソフトランディングさせるための協議を進める必要があろう。


41、他方、日本としてはそれとは別に、自国の安全を維持確保するための態勢を敏速に整える必要がある。
国家の安全保障とはいつ、いかなる事態が起こっても国家と国民の安全と生命を守る措置をとることであり、この場合、憶測だけで政策を進めることは危険である。
この場合、政府としては国民に十分、説明し協力を求める配慮が必要となる。
ミサイル防衛の体制や防空態勢、周辺海域における警戒監視を強化することも必要となる。
言うまでもなく、日本が必要な措置をとる場合の法的根拠は周辺事態法にいう周辺事態が発令されて始めて、実行が可能となる措置が多く含まれる。
場合によっては、周辺事態の後に武力攻撃事態対処法にいう事態発令が必要かもしれない。
ところが、この二つの法体系は決して十分で効率的な法体系とはいえず、現行防衛協力ガイドラインを見直したうえで、周辺事態法を改正するとともに、新たな法体系を敏速に整備する必要もある。


42、北朝鮮の核保有は日本の国家安全保障にとって重大な脅威であると同時に、東アジアの平和と安定にとり、深刻な挑戦である。
しかし、北朝鮮の核開発を前提として北東アジアの安定と地域バランスを考察するとき、核・通常戦力のバランスやミサイル防衛の体制だけでなく、域内諸国の経済力を含む総合的な国力を勘案しなければならない。
その際、北朝鮮の核保有北朝鮮の指導部が予期し得ない体質を有していることや、北朝鮮指導部の崩壊を予想した場合を考えるとますます深刻な脅威を提供する。
米国は北朝鮮核兵器が他の諸国に移転することを深刻視しているが、日本にとっては現にそこにある脅威が存在するのであって、米国とは基本的に脅威感が異なる。
従来、このような核の脅威に対して、日米同盟に基づき、米国は日本に核の傘、すなわち、拡大抑止を提供するというのが日米安保体制の基盤である。
しかし、日本を敵視している北朝鮮核兵器を使用する、あるいは、核兵器による威嚇がある場合、米国がいかなる反応を示すか。
そのとき米国は、北朝鮮に対して非難の声明を発する以外に手段を取り得ない可能性がある。
その結果、日本国内で米国による核の抑止は機能するかという問題が提起される可能性が大きい。
だからと言って、北朝鮮の核脅威に対して核保有のみによってこれに対応すべきだという安易な議論をするべきではない。

 

43、そもそも、日本の国家安全保障にとって、北朝鮮や中国・ロシアの核の脅威がいかなる程度と内容を持っており、それに対して、日本はどのように対応すべきか、という包括的な安全保障戦略の中で、日本の核政策を突き詰めて考えていかなければならない。
周辺国の核保有に対して、直ちに核武装によって対応すべきだという軽薄な議論は国益を失うばかりである。
日本にとって核の脅威がいかなるものであるかを冷静に判断し、これに対しては米国の拡大抑止がどのように機能し、それによって対応できる脅威がどのようなものであるかということを見極めることが肝心である。
そのうえで、日本が従来の核政策を見直す必要がどの程度あるのかということを包括的に検討する必要がある。
その結果として、仮に日本が核保有のオプションを考えるにしても、その場合には、
(1)原子力エネルギーとの関連性。
(2)NPT(核拡散防止条約)を含む国際約束との関係。
(3)日米同盟の信頼性と同盟の将来像。
(4)日本の防衛力と核開発が成功するまでの間の現実の脅威とそれに対する対応措置。
(5)国内世論と法的・政治的障害の克服。
(6)防衛予算や対米輸出停止によってもたらされる経済効果などを総合的に検討しなければならない。

 

44、北朝鮮の核保有に対し、日本も核武装で対抗しようとする考え方は基本的に短絡的である。
北朝鮮核兵器に対して日本の核武装がこれを抑止できるという保障はなく、日本が核武装したといって北朝鮮が核保有を断念したり、日本に対して核使用を思いとどまるとは思えず、結局のところ、日本が核武装しても問題は解決しない。
それどころか、日本の核武装は国際社会に重大な問題をもたらし、その影響度は北朝鮮の比ではない。
日本が核武装を決めるとNPTから脱退せざるを得ない。
日本の原子力エネルギーは現在、54基の原発を動かし、日本の電力の3割近くをまかなっている。
NPTから脱退すると豪州・カナダなどウラン原材料を輸出している各国からの供給が停止し、日本の原発は止まる。
それは戦後、日本の原子力エネルギー問題に尽力してきた原子力産業基盤のすべてを失うことを意味し、きわめて重大な問題である。
しかも、その有効な代替手段はない。
また、日本の核保有は日米同盟の破棄を意味する。
現下の国際情勢の枠組みにおいて、米国がそれに賛成するはずもない。
日米同盟とは日本を核保有国にしないようにするため、日米同盟という「ビンのフタ」で封じ込める仕組みである。
それはNATOにドイツを入れたのと同じ原理である。
日本の核武装に最も警戒しているのは米国であり、次は中国である。
日米同盟の廃棄は日本の対米輸出停止を意味する。
日本経済のその4割くらいを対米貿易に依存している。
それを捨てて豊かな日本が生存していけるとは思えない。
そして、日本が日米同盟を捨てるといった選択をした場合、核武装だけでなく、通常戦力を増強しなければ日本の国益を守れない。
防衛費は急増し、核開発費も必要となり、他方で他の先進国との貿易が減ると国内経済は破綻する。
しかし、より深刻な問題は核開発に成功するまでの間、周辺諸国から脅威を受けた場合に対応する十分な力がないということである。
米国に依存せずに自国で防衛するということがいかに金のかかることかを思い知るべきである。


45、日本人の多くにはいかなる場合も、どんな状況になっても核のオプションを考えるべきではないという強い感情があることは確かである。
それでも、国民が核保有という選択をしなければ、国家・国民が生存していけないといった局面に遭遇したときにどうすべきか。
保有を迫られる状況とは
(1)日本が周辺諸国から重大な核脅威を受け、国家の生存が危うくなる状況が出現すること、にも関わらず、
(2)日米同盟に基づく拡大抑止が機能しないか、あるいは著しく低下したと日本人が確信し、自らの選択を迫られること、である。


46、このところ、米国は日本国内に核武装論が出てきたことをきわめて警戒し、専門家や政府関係者が訪日しては説得に努めている状況にある。
しかし、問題は日米間で核に関する突っ込んだ議論をしてこなかったことであり、このような日米同盟の状態を速やかに改善する必要があろう。


47、しかし、中国には対外的拡張主義を進め、地域的覇権国を目指して発展しようとする外的モーメンタムと、国内統治を固めて政治的求心力を強化しようとする内的モーメンタムが国内において、しのぎ合いを続けて進んでいる。
対外的には中国経済が対外投資・貿易依存型である限り、米国や日本との良好な関係を維持せざるを得ず、国際的相互依存関係が深化するに従って、中国は国際社会の枠組みに取り込まれることになる。
これが国内社会と矛盾を生じて経済運営や政権統治が揺らぐ可能性がある。
他方、国内では政権側への不平・不満や深刻な国内問題をうまくマネジメントできないと、国内不安が高まり、政権の正当性が低下する。
また、人民解放軍を事実上、掌握しているかどうかによって政権の安定性が問われることになる。
一方、中国はこうした発展と成長のかげで、多くの阻害要因と課題に直面している。
そのリスクとは第一に、不動産・投資バブルである。
第二に、深刻な経済格差である。
第五に、こうした諸問題があるがゆえに、中国社会には不満や不平を持つ分子や、若者の中に政府の統制・規制に抵抗する現象が起きていることである。
中国はネット社会であり、外国から文化や情報があふれるばかりに入り、社会主義自由主義の矛盾が露呈することになる。
第六に、中国は経済的に発展と成長を続けても、国際社会と価値観を共有するような社会になり得るのかという問題に直面することである。
環境問題では中国は温室効果ガス排出世界1位であり、世界の20%以上を排出する。
急速に発展成長する中国が今後、どのような方向に進むかは、アジアのみならず国際社会にとって重大な問題であるが、その方向性は依然として不透明である。

 

48、一方で、中国経済外資と輸出に大きく依存しているという体質を変えることができない限り、投資・貿易の最大相手国である米国と「ことを構える」のは避けなければならない。
他方、中国は国益を守るための基盤国力として、国防軍を増強する必要があり、それが「富国強兵」政策に繋がっている。
人民解放軍は、中国共産党による支配のための軍隊であり、人民解放軍が分裂しない限り、中国は国家として分裂しない。
しかし、政権の統治能力が著しく低下し、国内が混乱すれば人民解放軍が国内統治に乗り出す可能性があると思わざるを得ない。
人民解放軍が1990年度末から急速に軍の近代化に邁進してきたのは、湾岸戦争後の米国の軍事技術優位やコソボ作戦の際、ベオグラード中国大使館に対するミサイル精密攻撃に影響されてのことであるとみられている。


49、結果として、米国の相対的国力の低下が不可避の状態となったことを見て、中国としても、米中の戦略的保障関係から得るものはあまりないと判断したに違いない。
これ以降、急速に米中が競合関係に入っていく実態が出現していくことになる。
2010年1月になって、米国は、中国のグーグル規制に関して極めて強い不快感を表明し、中国はこれに反発した。
一方、中国は、米軍の台湾に対する武器売却に反発して、一方的に米中軍事交流を停止するという措置に出たのである。


50、7月23日の第17回ARFにおいて、南シナ海を巡り米中外相が真っ向から対立することになったのは、こうした米中間の対立を象徴する事件でもあった。
ARFは、アジア太平洋の域内・域外から26ヵ国と1地域(EU代表)の代表(外相レヴェル)が集まり、域内の外交・防衛・安全保障を議論する場である。
この会合において韓国哨戒艦「天安」の沈没事件の他に、南シナ海問題が討議され、多くのASEAN諸国や米国、日本をはじめとする民主主義国家などが南シナ海に進出する中国への懸念や心配を表明した。
言うまでもなく、南シナ海問題とは、南シナ海における島嶼の領有権を巡って、中国・台湾・マレーシア・ブルネイ・フィリピン・ベトナムがそれぞれの島嶼の領有権を主張するのみならず、各国が島嶼を実効支配して軍事的緊張にある地域問題のことである。


51、中国とベトナム南シナ海において70年代と80年代の2度にわたり軍事衝突を引き起こした。
特に、中国が1992年に領海法を成立させて以来、軍事的に進出する事態が顕著となり、最近ではインドネシアの近傍まで調査船を派遣したことがインドネシアの大きな懸念となっている問題である。
1992年、米軍が在比基地から撤退するや、中国が南沙諸島に進出し、1995年にはフィリピンが領有権を主張するミスチーフ礁に施設を建設し始め、1998年には施設の拡大に取り掛かった。
このように、ASEAN諸国が従来から、南シナ海に懸念を有していたことは明らかである。
ARFのような多国間協議の場で、中国の海洋進出に対する懸念を米国や豪州・カナダ・NZ・韓国・日本・EUのみならず、ASEAN諸国が中国に向かって率直に表明したことはそれまでになかったことである。
特に、インドネシアは議長国であるベトナムと並んで中国に対しては急先鋒であった。


52、ASEAN諸国が揃って対中批判を披歴したのは、初めてのことであった。
もちろんのことだが、南シナ海問題についてはASEANを含むARF参加国が一枚岩であったわけではない。
域内諸国は米国中心の価値観を共有する諸国(日本、韓国、豪州、NZ、カナダ、EU、ASEANインドネシアシンガポール、フィリピン、ベトナム)と中国に気を遣いながら中国と協調する態度を示す諸国(ラオスカンボジアミャンマー、タイ、パキスタン北朝鮮、ロシア)に二分された。

 

53、次期政治リーダーである習近平氏が、どういう対外関係を進めようとしているかは未知数であり、これまでは外交の経験も知見もなさそうである。
しかし、はっきりしていることは、内政と統治に一定の実績を治めて中央に抜擢された次世代のテクノクラートであること、父親がかつて中国共産党の有力者であり、習近平氏を強く推薦したのは江沢民だということである。
それらのことを併せ考えると、江沢民およびその背後にいる人民解放軍の影響力が強く反映しているリーダーであると判断せざる得ない。
中国は友好協調路線から対外強硬路線に切り替わる途中の段階にあると考えてよいのではないかと思われる。


54、以上のことを前提に、先に起こった尖閣諸島問題の経緯を検証してみよう。
2010年9月7日、尖閣諸島の周辺では100隻近い中国漁船が操業しており、うち30隻ほどは尖閣諸島の日本側領海内で操業していた。
その中で、当該の中国漁船だけが、海上保安庁の巡視船の停止を振り切り、急速に舵を切って2回ぶつかって来て、巡視船2隻に損傷を与えた。
そこで海上保安庁は、第11管区海上保安本部に事態を連絡し、海上保安本部は海上保安庁および前原国土交通大臣の承認を得て、船長の逮捕に踏み切った。
法的には公務執行妨害の疑いが濃厚であった。
ちなみに、2004年に中国人活動家7名が尖閣諸島に上陸した事例があるが、この場合は入管法違反であった。
したがって、そのとき当時の小泉政権は、強制退去という措置をとったが、今回は公務執行妨害という重い罪の疑いがあったので、日本側は証拠のビデオテープを撮って、捜査の手続きを踏めば立件できる事案であると考えて逮捕したのである。


55、事態が急変したのは、9月19日である。
検察当局の要求を受け、石垣簡易裁判所が中国人船長の拘留を10日間延長することを19日に決めた直後、中国は対日政策を急速にエスカレートさせた。
その理由は、中国人船長が日本の国内法で起訴され、公判に持ち込まれることによって日本の司法手続きが完了すれば、「尖閣諸島は日本が実効支配している」という法的前提が確定することになる。
尖閣諸島の領有権を主張している中国としては、それを何としても回避したいと考えたのではないかと思われる。
それ以降、中国は対日措置をエスカレートさせてきた。
19日には閣僚級の交流を停止し、東シナ海の油田開発の日中交渉を停止し、日中航空交渉も停止した。
また20日には、日本側から見るとさしたる理由もないのに、フジタの社員4名を拘束し、それを交渉のカードに使うということもした。
さらにこの頃から、日中間の青少年交流、スポーツ交流、文化交流、人気グループSMAPの公演などの民間交流を止め、レアアースの輸出を止め、日本への観光客も止めた。
後からわかったことだが、日本企業との重要な商談のほとんどが停止された。
日本はこの頃、菅新政権ができて3日くらいしか経っておらず、内閣および閣僚はまだ充分に機能していなかった。
そういう状態の時に、中国だけが矢継ぎ早にカードを切ってくるということになった。


56、日本は戦後、「国益」という概念を避けて国家の運営を進めてきたが、国としていかなる国益を求めるのか、そのために国力を動員していかなるコストとリスクを覚悟しなければならないのかを明確にする必要がある。
それが不明瞭なまま国家の運営を進めたのでは、国力は再生しないのである。
外交とは、国益を対外関係を通じて追及する国家の手段である。
国家の国益が明確でないのに、外交戦略や外交方針を策定するということが、そもそもの誤りなのである。


57、政策決定のプロセスを検証しなければ、そこから教訓を引き出すことはできない。
そして、国家は教訓を学ばなければ、同じ過ちを何度も繰り返すことになる。
こうした「政策決定プロセスが不透明である」という民主主義国家としての欠陥を持ち続けたまま、国力が再生するはずがない。
NSC(国家安全保障会議)を設置することは望ましいことであり、できるだけ早く実現する必要はあるが、それだけでは、問題の解決には結びつかない。
重要政策を決定するに際し、総理には専門分野ごとの有能な補佐官が必要であり、それらがすべて組織的な活動に組み入れられ、有機的に機能していることが不可欠なのである。
しかも、国家安全保障会議は設置すれば機能するというものではなく、機能するような仕組みを作ることのほうが難しい。
要するに、何のために国家安全保障会議を設置するかと言えば、それは安全保障政策が国家・政府の総合機能であるがゆえに、国家安全保障会議を活用して安全保障の観点からすべての政策を総合的に判断して決定するためである。
それを調整させつつ周知させ、実行して、報国させるとともに必要に応じて改善する総合機能を果たすためのものであり、しかも、その機能は明確な政策決定プロセスと一貫性のある決断によって果たされるものでなければならない。
第三の課題はこのような機構の中で、政策決定プロセスを動かすに際し、国家の情報機能を強化することである。
日本の国家情報機能の最大の欠陥は、複数の情報機関が縦割りであり、国家として統一された機能になっていないことである。
これを統一するためには、本来、国家情報庁のような情報機関を設置する必要がある。
しかし、今日、それはきわめて行政的に困難な作業となるであろう。
しかも、米国型のような情報機関を設置することは難しく、日本の政治体制は大統領制ではないので、米国型を取り入れることが必ずしも適切とは思えない。
むしろ、日本にとってより有効と思われる情報機能は、英国式である。
英国では、国家の独立した情報機関が、核情報機関から上がってくる全ての情報を精査し、その中から首相に上げるべき情報を選択して意思決定プロセスに資する仕組みを持っている。
日本がもし取り入れるとするならば、この英国式の情報機能が、議会制民主主義下における政策決定プロセスを有効にするための、最も適切なやり方であるに違いない。


58、このように、法律で完全に縛った自衛力を持っている限り、自衛力をどのように近代化しようとも、軍隊として使えない戦力を持っていることになる。
海外で本来の目的のために自衛力の実力を発揮できない限り、軍事力を背景にした外交ができるはずがない。
外交を強くするためには軍事力を背景にした外交が最も有効である、ということは世界の先進国が証明している。
イギリスやフランスがよい例だが、日本より経済力や人口の面で、小さな国が有効な外交力を発揮している。
それは、その背景に、いつでも使える軍事力があるからに他ならない。
米国、ロシア、中国においては、なおさらのことである。


59、日本と価値観を共有する国々との連携を強化する必要がある。
とりわけ、韓国や豪州など米国の同盟国やベトナムインドネシアシンガポール、フィリピンなどASEANの中で中国に大きな懸念を抱いている友好国との連携を強化することが重要である。
また、そのうえに立って、アジアの平和と安定のためにどのような外交努力ができるかを再検討する必要がある。
さらに、これを発展させてアジア太平洋の平和と安定に対する懸念を共有している国々と、安全保障の多国間協力関係を進めていくことも必要である。
特に、日米韓、日米豪、日米印、日米ASEANといった多国間の安全保障協力関係を進めることである。
これが今後、主として北東アジアの安定のために日本が行うべき外交・安全保障面における第一の努力である。
日本がすべき外交・安全保障面の第二の側面は、日米同盟をどのようにして強化するかということである。


60、日米両国は、2010年12月に日本南西海域で、日米共同の統合演習を行った。
この演習の主たる狙いは、海および空における海洋を通じて日本周囲に脅威が及ぶ際に、日米でどのような共同行動ができるかということを念頭に置いた総合演習であり、特に在日米空軍と航空自衛隊、及び在日米海軍と海上自衛隊の共同活動が、その総合演習の主要な部分を占めていた。
このような日米共同作戦活動を演習することにより、朝鮮半島における中国や北朝鮮に対する抑止機能を働かせることが最も効果的である。

 

61、日米両国は、同盟という道を選択して戦後の約半世紀、東アジアの共産勢力に対抗して冷戦を無事に乗り切った。
この間に、日米双方が得た成果と実績は、両国にとってきわめて重要な資産であり、今や、アジアにおける平和と安定のための公共財と認識されるようになっている。
1996年に日米安全保障共同宣言が発出された理由である。
それから15年が経過し、この間、冷戦後の性格を持つ地域紛争が頻発し、9.11 後にテロ活動がグローバルに広がり、海賊や核拡散などのいわゆる非対象脅威が広がった。
これに伴い日米同盟が対応すべき対象と内容も広範に拡大した。
日米両国は1997年に日米防衛協力ガイドラインの見直しを行った。
この新しいガイドラインに基づいて、特に、日本は30以上に及ぶ各種の有事法制を整備してきたのである。


62、この米軍再編と言われる作業はやがて、2001年9月の同時多発テロ事件以来、促進され、その作業の対象には在日米軍も含まれるようになり、2003年末から日米協議の議題に上がるようになった。
東アジアの脅威認識の中で北朝鮮の核・弾道ミサイルや中国の海・空軍の近代化と海洋進出が深刻な脅威として認識されるようになり、更に、域内における非対象脅威にも対応する必要が迫られるようになった。


63、ブッシュ政権イラク戦争に専念し、これから抜け出ることができなかったが、オバマ政権になって対テロ戦争の主戦場をイラクからアフガンにシフトし、更に、対テロ活動はアフガンからイエメン・ソマリアなどに広がり、海賊などの非対象脅威にも対応する必要に迫られている。
米国はこうした新たな安全保障環境の中で国防戦略の見直しを行い、その結果を2010年2月1日に「2010QDR」という形で明らかにした。
米国がこうした国際社会が直面する各種の脅威やリスクに単独で対応する能力や機能に限界を認め始めたことが、この戦略見直しの背景にある。
一方、日本は湾岸戦争後に自衛隊が国際平和協力に参加するようになり、いわゆる領域防衛に徹する防衛力から、国際社会に貢献する役割と機能をも備えた防衛力に変貌し、国際平和活動を通じて経験を積み、装備を備え、体制を整備して、往来の領域防衛に専従してきた自衛隊とは異なる機能をを持ち始めている。
ただ、依然として北朝鮮の弾道ミサイル脅威には日米協力によってミサイル防衛のシステムを機能させる必要があり、また、海洋に進出してくる中国海軍に対しても日本の防衛力により単独で対応できるまでには至っていない。
また、日本有事や極東有事に対しては日米防衛協力に依存するところが大きいことに変わりない。


64、日米当局者の中で2010年が日米安保条約約50周年めにあたり、そのための作業開始を2009年11月のオバマ大統領訪日の際に合意しようとしていたところ、2009年8月の総選挙により民主党政権が誕生し、その後、日米同盟関係の方向が不透明になってきた。
その最大原因は、鳩山政権が普天間基地問題に関する今までの日米合意をひっくり返してしまったことによる。
特に2009年11月のオバマ大統領訪日の際に、米国は普天間問題を解決しようとしたが、日本側が米国のやり方には対応せず、普天間基地問題について鳩山首相が決断しなかった。
その後も民主党政権の迷走ぶりが続き、日米当局者は普天間基地問題に忙殺されて同盟深化の作業に取り掛かることができなかった。


65、一般論から言えば、同盟の「深化」とは同盟の分野・範囲を「横」に広げるだけではなく、同盟の持つ役割・機能を充実・拡充して、「縦」に深めることが重要であると考えられる。


66、それよりも深刻な問題は、東アジアの急速な変化と展望である。
東アジアを展望すると海洋に進出する中国の動向は日米両国のみならず、他のアジア太平洋諸国にとって最大の安全保障上の対象であり、懸念事項になっている。
中国は問題を抱えつつも、発展を続け、今世紀中頃までに人口、経済力、軍事力、生産力、購買力で世界第1位になるであろう。
その中国が進むべき方向は従来から、米国が圧倒的な優位性をもって覇権的地位を維持してきた領有権の確定していない分野における米国支配への挑戦である。
その分野とは、(1)海洋、(2)宇宙、(3)サイバースペース、(4)グローバルコモンズに対する阻害要因、例えば、人権、環境、武器売却、イラン核開発、台湾問題などを含む問題である。
中国の軍事力近代化は、台湾攻略・海上輸送路確保・海洋資源の確保などの目的を有しているが、より重要なことは領有権が確定していない分野における覇権を求めて米国に挑戦する手段を充実することである。


67、特に、日本は PAC-3 システムの整備を更に進めるべきであり、米国も必要に応じて日本本土のミサイル防衛配備を検討すべきである。
日米はミサイル防衛について現実の北朝鮮ミサイル発射事件もあり、連携動作や協力体制を緊密にするための訓練を積み重ねてきた。
この結果、相当な技量に達しているが、周辺からくる弾道ミサイルの脅威については、相手のミサイル技術開発に追随する必要があることから、不断の努力を続ける必要がある。
この点で協力すべき分野と要領を広げることは同盟深化の重要な課題となっている。
情報保全についても極めて重要な問題であるが、最近になって重大な情報リーク事件が発生しており、これは主として日本側に問題の多い分野である。
日米間の情報交換・情報共有を一層、緊密にすべきであることはいうまでもないが、情報保全については日本側に法的措置が十分でなく、守秘義務を規定する法体系を整備することが肝要である。
これが克服できないと同盟国間の国家機密・国防秘密について情報交換が緊密化しない。


68、東アジアの将来展望を試みると、海洋に進出する中国がその力を周辺に射出することに、いかにして対応するかが、日米同盟の最大課題であることは明白である。
これは日米両国だけでなく、海洋に利益を有する多くのアジア諸国の共通目的でもある。
しかし、海洋に進出する中国に単独で対応できる国家は今のところ米国しかない。
その米国と中国は軍事力の面で今世紀中頃には第一列島線第二列島線の中間で勢力均衡状態になり、いずれが優位を占めるかが東シナ海をめぐる覇権競争の主眼となる。
日本はその間に挟まれる。
そのため、まず、「共通ヴィジョン」に基づいて日米防衛協力ガイドラインを、海洋における抑止力を強化するように見直し、それを履行するために規定されている周辺事態法などの既存の法体系を改正することである。
それでも、日本は領域外において、武器の使用や武力行使に大きな制約を課せられており、米国の要請どおりに行動できたわけではない。
イラクやアフガンでの活動も人道支援や財政支援にとどまり、米国から見ると、日本の貢献はリスクの伴わない分野に限られることによる不満が解消されたことはない。


69、アジア太平洋地域における安定のために、日米同盟を一層活用することも同盟深化の課題であり、日米同盟協力を日米韓に広げることが有効である。
また、こうした協力関係を豪州、インド、ASEAN諸国と双方の可能な範囲で進めていくことも将来の課題である。
その場合、あくまで日米同盟を中軸において進めることが肝要であり、日米同盟を東アジアの安定のための核心にする方向を示しつつ、各国との協力を進めることが求められる。
これは日米同盟だけの為のものではなく、日本の将来に深く関わる問題である。
日本が国際社会において重要な位置を占めるためには、国力に応じる貢献と役割分担を行うことは国家としての責任でもある。
日本としては、こうした国際競争力を広げるために一般法を制定し、特別措置法ではなく国際協力の基準を作って自衛隊を領域外に派遣できるようにすることが求められる。
その際、武器使用権限を現地指揮官に大幅に認めて、他国がしているような武器使用を可能とする法体系を整備することが国際協力を実効性のあるものとするであろう。
日本はこの結果を踏まえて、国家安全保障基本法や国家危機管理法を整備することが重要である。


70、自衛隊の国際協力活動を充実させるために武器携行を自由に行うために武器輸出原則を見直すことや、日本周辺の領域警備に必要な領域警備法の制定をすることも、日本の防衛力を活用するために取り組むべき課題である。
米国の国力の相対的低下を前提とすれば、同盟国がこれを今まで以上に支援・協力する状況にきていることは言うまでもない。
その後は憲法問題に入ってくるが、憲法をどのように改正することが日本の国益になるか、集団的自衛権を行使するためには、いかなる憲法改正があり得るかを考察し、日米同盟の将来像を描くことが必要となるであろう。


71、確かに、日本はいま、防衛予算を急速に増額できるような財政事情ではない。
防衛力のプライオリティを厳密に選択しなければならないという状況に置かれた事は当然である。
新防衛大綱はそうした課題に取り組んだ結果として出来上がったものである。
特に重視されているのは海上防衛力であり、潜水艦16隻を22隻に、イージス艦6隻にBMD(ミサイル防衛)を配備する計画である。
もっとも、これだけ海上防衛力を増強しても、日本周辺地域の脅威にすべて対応できるわけではない。
しかし、海上自衛隊と在日米海軍の連携・協力関係が緊密で強固なものとなるため、特に南西方面における中国海軍の進出に有効な抑止機能を発揮することが期待できる。
航空自衛隊については、作戦機260機の規模を維持することになったが、間もなく姿を消すことになるF4戦闘機(第4世代の戦闘機)の代わりに、FX新戦闘機を導入する計画が中期防衛力整備計画の中で認定されている。
その機種選定を平成23年度中に行ない、平成27年度以降に導入するという計画で、現在、機種選定のための予備的な作業が進んでいるところである。
第5世代の戦闘機に関しては、極東においてロシアが2016年から17年頃にかけて導入予定であり、その2~3年遅れで中国も導入することになりそうである。
それに対し、日本はできるだけ早くFX新戦闘機を導入する必要がある。
その候補機としては、いまのところ、F-35、F-18、並びにユーロファイターを考慮に入れつつ選定しようとしている。
いずれにしても、FX新戦闘機の導入によって、周辺諸国の経空脅威に有効に対応できる航空防衛力を備え、海上防衛力と連携して活動できるよう整備する必要がある。
陸上自衛隊については、大幅な定員増が期待できない中で、「南西地域防衛」という新しい防衛力配備の方向性が盛り込まれた。
九州南端から与那国島までの約1300kmのうち、有人島は190で、現在、自衛隊が展開しているのは、5島にすぎない。
それでは南西方面から来る各種の脅威に対応できないことから、南西方面における陸上防衛力を厚くする基盤ができることになる。


72、尖閣諸島については、その領有権を強化するために、必要な構築物を設置し、担当の要員が常時駐留できるような態勢をとることが必要である。
それと同時に、周辺の海空域で日地米同盟に基づく抑止機能を発揮させ、海上保安庁海上自衛隊の連携も強化する。
以上のような新しい防衛態勢をとることが、有効なのではないかと考えられる。
したがって、中国が近く空母を複数隻装備し、これらの空母ならびにその空母を守るための潜水艦戦力を、東シナ海から第一列島線を超えて第二列島線のほうに拡大していく時、日本としては自国の防衛力をもう一度見直す必要があるという課題がある。


73、日本のような周辺を海域・空域に囲まれいる国家で、しかも、6800以上の島嶼で構成されている国の情報機能は他国と異なる機能を備えておく必要があり、その点で偵察衛星無人偵察機の整備は不可欠であろう。
また情報保全体制を万全にするための法的措置も必要となる。
総理大臣の権限のもとに自衛隊が一貫した方針で、その防衛力を遺憾なく発揮できるような機関を作ることが求められる。


74、日本は防衛力をいかに近代化しても、それを行使する場合の法的・政治的抑制要因がきわめて強い。
特に、武器の使用や、武力を行使する場合の法的・政治的抑制要因が強いため、海上保安庁が対応できない事態が領海の中で起きた場合、海上自衛隊海上警備行動に基づいて出動することはあっても、その武器使用の範囲は警察活動の範囲を越えることはできない。
このような政治的・法的拘束を更に乗り越えていくためには、その先にある憲法問題というハードルをクリアしなければならない。


75、抑止力としての軍事力が有効な抑止機能を発揮できる要件とは何か。
第一は、前述したように、相手の先制攻撃に対して生き残り性が高いことである。
先制攻撃を受けてこちらの戦力が反撃力を失ってしまうようでは、抑止力たりえない。
いかなる攻撃を受けても生き残り、第二撃としての報復能力を有していることが重要であり、そのためには積極防御戦力や抗堪性の高い消極防御戦力が求められる。
積極防御戦力というのは、例えば、ミサイル防衛戦力や防空戦力のように、相手の攻撃を排除し、撃破する戦力のことである。
一般的に言うと、あらゆる戦力の中で最も生き残り性の高い戦力は、原子力潜水艦である。
これは、相手から発見されにくく、発見されても攻撃しにくく、攻撃しても移動するので生き残り性が高い。


76、この湾岸戦争を通じて、国際社会が得た教訓は多い。
第一は、湾岸戦争が冷戦末期から冷戦後世界へ入るプロセスの中で発生した戦争であり、イラク国連憲章に基づく国際秩序に従わなかったため、国際社会は初めて多国籍軍という形をとって国際秩序回復に乗り出した。
これが、その後の国際社会による秩序回復の手法となったことである。


77、国連の活動には国際社会の期待が寄せられつつも、いまだに、その本来の役割を発揮するまでには至っていない点である。


78、しかし、よく考えると、深刻な問題は東アジアにあるのではなく、日本の中にあるのではないか。
危機が起こっても政府と与党がうまく機能していないこと、見通しのないまま決断が行われていること、決断のプロセスが不透明であること、いつまでたっても防衛力を他国のように適切に活用できないこと、平和ボケのままの国民がいること。
この国は国家として機能していないのではないか。